わたしは、自分で読む本を探す振りをして、智子を見つけようとしたが、彼女はすぐにわたしのところに戻ってきた。
ぎゅっと、抱きかかえるようにしてやってきた智子が持っていたのは『Good Luck』という題名が書いてあった本だった。
「これね、わたしのお気に入りなの。愛美ちゃんに読んでほしいと思って……」
わたしの視線に気が付いたのか、照れくさそうにしながら智子はわたしに持っていた本を渡してくれた。
どうやら自分で読むためにではなくて、わたしのために選んでくれたらしい。
それとも、自分の好きな本を読んでもらって、わたしに自分のことをわかってほしいと思っているのだろうか?
その心理は、わからなくもなかったし、智子がわたしに好意を抱いているのも、もう否定できない事実だった。
それならば、わたしにも『倉敷』という人物を、理解する努力をしなくてはならないのかもしれない。
わたしは、素直に智子から本を受け取って、近くの席に座って読書を開始する。