そして、始まった映画の内容は、まぁいわゆる純愛ラブストーリーというやつだった。
2人の男女が恋をして、様々な障害を乗り越えて、愛を育む、どこにでも転がっていそうな、ごくごく普通の物語。
2時間ほど見せられたその物語に、わたしはやっぱり、何の感情を持つことができなかった。
こんな話、わたしにとっては別の世界の物語だ。
もちろん、映画である以上、フィクションの世界だということは理解できる。
でもきっと、この映画を見たカップルなんかは『私たちも彼らのように幸せな時間を過ごそう』と思ったりするのだろう。
でも、わたしには無理なのだ。
わたしは、幸せになることを許されない人間なのだ。
ふいに、隣に座っている智子を見た。
暗闇の中、わずかに見える彼女の横顔は、ただじっとスクリーンを見つめていた。
無表情に。
まるで、そこからなにかを得ようとするように。
いつか読んだ本で、こんな台詞があったことを思い出す。
『人間は、幸福を求めなければ、幸福になることはできない』
もし、その言葉が本当ならば、智子はこの映画を見て、幸福を得ようとする努力をしているのかもしれない。
以前のわたしなら、そんな彼女の姿をみて、ただ冷笑を浴びせていただけかもしれない。
だけど、今のわたしは、そんな彼女の姿勢を見て、心底羨ましいと、思ってしまったのだった。