「愛美ちゃん、どれ見ようかー」
「えっ? ああ、うん。智子が適当に選んで」
「そうだねー……」
余計なことを考えてしまっていたので、智子の顔をちゃんと見ずに返答してしまったことを、わたしは少し後悔する。
この子は、わたしと見る映画の選択を、どんな顔をしながらやっているのだろう……。
無性に気になってしまうのは、どうしてなのか……。
わたしは、わたしの気持ちが、わからなかった。
「うん、これにしよう」
そう言って、智子が指さした映画は、洋画のラブストーリーもので、やっぱりわたしが聞いたことがない作品だった。
ちょうど、上映時間の15分前だったので、わたしたちはすぐにチケットを買って座席に着いた。
正直に告白してしまえば、わたしは映画館に来るのが随分と久しぶりだったので、隣に知り合いがいるというのは、どうしようもない違和感が生じてしまう。
周りは薄暗いから、わたしの顔なんて見られる心配もないのだろうが、どうしたって気にしてしまう。
ただ、わたしにとって幸いだったのは、見た目通り、この映画館はあまり流行っていないようで、日曜日のお昼だというのに観客はまばらで、近くに知らない人がいるという状況にはならなかった。
それどころか、この広い空間の中に、わたしと智子しかいないような錯覚をするくらいだった。
「楽しみだね」
智子がそう呟いて、わたしが返事をするよりも先に、映像の音が館内中に響き渡った。