数分間、案内されるがままに歩いたわたしたちは、無事、映画館にたどり着いた。
外装はレトロな感じで、こういっちゃなんだが、あまり流行っているようには見えなくて、上映予定として紹介されている映画のポスターも、わたしの知らないものばかりであった。
多分、智子がマニアックな映画を好んで、この場所を選んだのではなく、単に、わたしが人目を気にするから、クラスメイトなんかと遭遇しない映画館を選んでくれたのだろう。
そういう気遣いをできる子であることを、わたしはこの数週間でわかっていた。
と、ここである考えが、わたしの中で浮かんでしまった。
智子は、わたしが本当の家族じゃない人たちのところで居候している事情を知っている。
だから、もしかして智子は、わたしが休みの日に近江家にいることの気まずさを察してくれて、連絡してきたのだろうか?
思えば、この子がわたしを無理やりどこかへ連れて行こうとしたときは、必ず、わたしが逃げ出したいときだった。
現実からも。
あの幸せそうな近江家からも。
わたしは、逃げ出してばかりだけど、いつもわたしが辿りついた場所には、智子が待ってくれている。