「わああああ! すいません、すいません! 急いでるんです! 道あけてください!」
白いカッターシャツに薄茶色のジーンズ。ところどころ剃り残しの髭を生やした中年男性がこちらに近づいてくる。
「あっ!」
そして、リュックサックを背負った私の顔を見ると、頬を緩ませて手を振りながら小走りでわたしの目の前までやってきた。
「君! 遠野愛美ちゃんでしょ?」
そして、その男の人がわたしの名前を呼んだ。
「……ええ、そうですけど」
無愛想な返事をしたわたしだったけれど、その人は両手を合わせて頭を垂れた。
「ごめんね! 渋滞に引っかかっちゃって迎えにくるのが遅れちゃったんだ! 待たせちゃったよね、愛美ちゃん?」
「……ああ、いえ、気にしないでください。さっき来たばかりなんで」
とりあえず落ち着いてもらうためにそう言ったけど、考えてみれば、わたしまで「さっき来た」のなら、それはそれで問題だ。
これではわたしも1時間遅刻したことになってしまうではないか。