「お待たせ。ちょっと準備に手間取っちゃった」

 えへへ、と照れくさそうにする智子(ともこ)は、いつものヘアピンをつけた髪型は同じだったのだが、私服が黄色いワンピース姿に、ピンクのカーディガンを羽織っていた。

 ヒールも新品のようにきれいな純白だったので、今日初めて履いた物かもしれない。

 まるでデートをするような恰好じゃないか、と思ってしまったのは、朝の由吉さんの発言に引っ張られてしまっているのかもしれない。

「それで、どこに行くの?」

 わたしは、智子の質問には答えずに、ぶっきら棒にこれからの予定を聞いた。

「うーん、愛美(まなみ)ちゃんは、どこに行きたい?」

「……わたしは、暇つぶしできるなら、どこでもいい」

「そっか」

 わたしの発言を聞いて、微妙な反応をしたけれど、どうやら智子はあらかじめ、ある程度の予定は決めていたようで、「それじゃあ、映画でも見よっか」と提案してきた。

 もちろん、わたしに反論の余地はない。

 それどころか、映画とはなかなかいいチョイスではないか、と感心したくらいだ。

 ここで、智子が「カラオケに行こう」なんて言ったならば、わたしは即座にこの場でUターンして立ち去っていたかもしれない。


 まだ土地勘に不慣れなわたしは、智子の後ろを付いていくようにして歩く。

 すれ違う人たちがわたしたちを見たら、仲のいい友達同士なんて思うのだろうか?

 今まで友達なんていなかったわたしには、想像できない話であった。