「……別にいいけど」

「えっ?」

 そんなに意外だったのか、智子は一瞬だけ身体をビクンと反応させる。

 わたしは、それを気にすることもなく捲し立てる。

「連絡先……交換するのは別にいいってこと。智子のいう通り、友達なら連絡先知ってないと可笑しいし、わたしの連絡先登録、この人たちに見られる可能性あるし……。そのときにクラスメイトの名前がひとつもなかったら怪しまれるでしょ?」

 自分で言ってて、ちぐはぐな弁明だと思う。

 第一、由吉さんたちがわたしに秘密でスマホの中身を見るなんて、あり得ないことだ。

 でも、こういう風に言い訳を並べないと今のわたしのこの気持ちをどう表現していいのか、わからなくなってしまう。

 もしかして、このわたしは『友達の期待に応えたい』なんて思っているのではないのか? なんて可能性を、考えたくもなかった。

「……どうしたの? やるならさっさとやろうよ。連絡先の交換」

「うっ、うん! そうだね!」

 戸惑う智子を急かして、わたしたちは連絡先を交換しあった。 

「学校が終わっても、少しだけなら、連絡してもいいかな?」

「……くだらないことじゃなければ」

「でっ、できるだけ努力します」

 そう言った智子の表情は、とても満足げだった。

 そんな智子を見て、わたしの心にも、何かが生まれたような気がしたのだが、それはすぐに霧散して、ちりぢりになって消えてしまった。

 きっと、もう一度拾い集めても、元の形に戻すことは不可能だろう。


 わたしは初めて『友達』と連絡先を交換した。

 奇妙な充実感を得たのは、きっと気のせいだろう。