「おはようございます。わたしは正直村のセナといいます」
 切り株の上に立つ少女はそう言い、ようやくにっこりと微笑んだ。スカートをつまんでお辞儀すらしてみせた。
「おはよう、僕は旅人のヤマト。さっそくだけれど、きみの村まで連れていってくれるかな」
 ヤマトはこれを、正直村とうそつき村のクイズにならった歓迎法なのだと解釈し、にべもなくそう依頼する。
「わたしの村、ですか?」
 少女は変わらず達観したような、その幼い体躯に似つかわしくない落ち着いた微笑(びしょう)をたたえていた。それは多くの女神像が浮かべているのと同種の微笑みだった。
 女神像的少女の背後には、もちろん分かれ道があった。背の高い木々の森が道を真っ二つに割っている。クイズの問題文通りならば、どちらか一方が正直村へ、そしてもう一方がうそつき村へと繋がっているのだろう。
 正直者だけが住む正直村と、うそつきだけが住むうそつき村。正直村に行きたいのなら、案内人が住む村へと連れていってもらえばいい。案内人が正直村の住人ならば、正直に正直村へと連れていってくれるし、案内人がうそつき村の住人ならば、うそをついて正直村へと連れていってくれる。誰もが教師からそう教わったはずだ。
「……お安い御用です。ではご案内しますね。こちらがわたしの村、『正直村』への道です」
 少女は切り株から下り、ヤマトから見て左側の道を手で示した。
 それにしても、彼女は毎朝この切り株の上に立ち、来るかも分からない旅人を待っているのだろうか?
 先を行く少女の小さな背中を見つめながら、ヤマトは一抹の不安をその心中に宿し始めていた。

         §

 分かれ道に立っていた少女・セナの案内でたどり着いたその村は、森で伐採した木々の背の高さを少しも殺すことのないよう精一杯に心がけましたというような長く太い木の柵で村の外周を囲い、唯一通行可能な門の脇には検問所を設置していた。
 こんなへんぴな村に、どうしてこれほどの柵や検問所が必要とされるのだろう?

「――彼らはよそ者がうそをついて、自分たちを騙そうとしてくるんじゃないかと、そう疑っているんだね」

 ヤマトの脳裏に、酒場にいた男の言葉がよみがえる。
 検問所には、王都から派遣されてきているのだという若い男の番兵がいた。