それは先々代の王の時代、王都の開拓隊が無計画にこの辺りの木々を伐採したところ、土壌を引き留め、降雨で満ちた水分を吸い上げてくれていた根までをも腐らせてしまい、それ以来放置され続けた結果なのだ――と、これも酒場の客が言っていた。
 旅人のヤマトは大沼から少しばかり道を引き返した森の中で、辺りに獣の痕跡がないことを確認すると、そこを野営地として夜明けを待った。霧雨が葉を伝い、野営用のテントにぽつりぽつりと落ちてきてはいたものの、朝になると太陽は変わらずその輝ける姿を地平に現した。
 テントを巾着型の袋にしまい、細長い干し肉を少しずつかじる。大沼の様子は昨夜と変わらない。強いて言えばわずかに水量が減っているようにも見える。
 沼の岸辺に立ち足下に目を凝らすと、粘土質な泥の上の、水溜まりほどの水深しかない浅瀬で、数匹の小魚がほとんど干上がる寸前の跳ね方と同じ、のたうち回るような泳ぎ方をしていた。
 沼全体を見渡しながら浅瀬に沿って歩いてまもなく、ヤマトは酒場の男が言っていた「光る道」を水面に見つける。屈んで沼の底に指を触れてみると、その部分だけ土が十分に押し固められていた。
 日光を受け輝いているのは、極小の砂の粒だった。砂金の可能性もある、とヤマトは考えたが、無闇にそれを採集して正直村への道筋を失うことは、ある種の人間的愚かさを象徴しているように思えた。
 光る道を少しでも踏み外そうものなら、旅人のブーツは沼の求愛を受け次なる一歩を頑なに拒む。
 だからヤマトは泥の中に埋もれていこうとするそれを片足立ちのまま何度も救出せねばならなかった。
 こんな場所、いくら慣れても馬車なんか通れるものかとヤマトは思ったが、一度こつをつかむと、もうそれ以上道を踏み外すことはなくなった。
 下を向いて歩くと、それこそ光の加減か、そこにあったはずの砂粒の光が見えなくなるのだが、勇気をもって顔を上げ、道の行く先を見つめながら歩けば、自ずと道を踏み外さずに進むことができるのだった。

 湿地帯を抜けたところに、一人の少女が立っていた。ヤマトは大沼を渡り終える前から、彼女の存在に気がついていた。まるで森の精みたいに、大きな切り株の上でたたずむ少女。
 ヤマトは光る道の上を歩んでいるときに何度か彼女と目が合ったように感じたのだが、少女は表情を変えることなくただまっすぐにこちらを見据えていた。