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「婚約者の変更が正式に受理された」
 と、父親であるマンフレディ公爵が、紙を手にしてアドリアーナとニコレッタに伝えた。受理されたのは、王太子ベルンハルトの婚約者を姉アドリアーナから妹ニコレッタへ変更する内容。

「お父さま、ありがとうございます」
 ニコレッタは喜び、父親に抱きつく。

「おめでとう、ニコレッタ」アドリアーナが感情の読めない口調で言う。

「ありがとうございます、お姉さま」

 でも、これで本当に良かったのか? とアドリアーナは思う。 

「アドリアーナ。こちらも正式に受理された」ともう一枚の紙を手にしている。

 それはコンラートとの婚約者の変更。妹ニコレッタから姉アドリアーナへの変更を受理するというもの。

 アドリアーナの父親がこの国の宰相であり公爵家であれば、コンラートの家もまた公爵家であり、父親はこの国の騎士団の団長。コンラートも学校卒業後は騎士団入団が決まっているが、三男坊。そのため男子がいないどっかの貴族に婿養子に入る。それに目をつけられたのがこの女児しかいないマンフレディ家であり、その二女のニコレッタであった。

 結局、婚約者変更についても、そんな紙ぺら一枚でのやり取りではなくて、父親が王家とコンラートの父親と、いろいろ相談して決めたに違いない。マンフレディ家の娘なら、長女だろうが、二女だろうがどっちでもいい、と。そこに、本人たちの意思というものは存在しないのだ。

「ありがとうございます」
アドリアーナは深々と頭を下げた。