文化祭が来月に控える中、今日はクラスで文化祭の出し物の選定だ。体育祭は運動の得手不得手で生徒の受け止め方が異なるが、文化祭はお祭りなので、基本的にみんな乗り気だ。このクラスメイトたちとどんな思い出を作ろうかと、皆で知恵を出し合って考える。

「あのう」

ひとりの女子が挙手をして立ち上がる。文化祭委員が意見を求めると、その女子は笑顔でこう言った。

「折角暁くんが居るんだから、彼をリーダーにして執事喫茶とかだと盛り上がりそうだし、お客さんもたくさん来てくれると思います」

女子の発言に、クラス中が色めきだった。未だに休み時間には玲人の顔を見ようと、主に女子が廊下に鈴なりになっている状態だ。それを思えば、彼を祭り上げるだけで集客効果はばっちりだろう。その考えはクラス中に共有されたらしく、いいね! とか、じゃあ他の執事も厳選して、なんて言葉が飛び交う。そんな中、玲人は恐縮した様子で笑っていたが、あかねには玲人が考えていることが分かってしまった。

……玲人は『FTF』のリーダーに推薦されたときも遠慮していた。みんなでリーダーの気持ちを持ってやっていけば良いじゃないか、という思想の持ち主だった。自分一人だけが目立つのではなく、皆で輝きたい、そういう思考の持ち主だった。だからこそ、あかねはそんな玲人を敬愛し、推しとして崇め奉ることを厭わなかった。玲人は人格者だ。それ故、入ったばかりのこのクラスでは波風立てないようにみんなの意見に反対しないだろう。それが玲人の『普通の高校生になりたい』という希望に適っていなくてもだ。そう思ったら、あかねは自然と挙手していた。

「はい、高橋さん」

文化祭委員があかねを挿し、あかねは椅子から立ち上がった。

「……暁くんを一人祭り上げるのはどうかなと思います。もっと……、皆で盛り上げることが大事だと思います」

あかねの心臓は、ドッキンバックンと鳴っていた。クラスの八割が賛成しているような状況で、反対意見を言うのは勇気が要った。でも、玲人がこのままお祭りに祭り上げられてしまうのは見過ごせなかったのだ。

玲人をリーダーとする執事喫茶で盛り上がっていたクラスメイトたちがしん、としてあかねを見た。いたたまれなくて俯いたが、クラスにカッコつけと後ろ指をさされても、玲人の願いを守りたかった。

「あの」

すいっと、あかねの隣の席の玲人が挙手した。

「僕、いいですよ。文化祭って思い出に残るものでしょう? 僕で良ければ、皆の力になりたいです」

(ああ、玲人くんはやっぱり素敵だ……。自分の自由を犠牲にしてまでもクラスに貢献しようだなんて……。もしかして『FTF』でも、そうやってみんなを引っ張ってたのかな……。それだとしたら、凄く疲れただろうな……。それなのに五年も嫌な顔一つせずに、私たちに夢を見させてくれた玲人くんは、やっぱり凄いよ……。せめて高校(ここ)では、そういうことと無縁になればいいのに……)

あかねはそう思ったが、それでも着席する間際に玲人があかねを見て微笑んでくれたから、あかねの気持ちは伝わった……、のかもしれない。