それからというもの、あかねは徹底的に玲人に対して無関心を決め込んだ。最推しの希望を叶えるべく、頑張った。

二学期が始まって、一連の学力テストが終わった一週間が経った時に訪れた最初の関門は、教科書の共有。玲人は緊急転入だったため、教材の全てが揃っていなかった。故にあかねは玲人と机をぴったりと合わせて授業を受けることになり、己の心拍数の最高値が日々更新されて行っている様子を可視化されなくて良かったと思った。今日も古文の授業で先生の話を聞きながら教科書を机と机の真ん中に置いて覗き込んでいる。玲人がボソッと、やっぱり授業進んでるね、とあかねに話し掛けてきた。

「そうかな」

あかねはその後に、玲人くんの学校では何処まで進んでたの? と続きそうになる口をむぐっと塞いだ。

「教科書、もうちょっとそっちに寄せる?」
「ん? ああ、ありがとう」

そう言ってクラスメイトに対して何も疑わない笑顔を向ける玲人の輝く姿にくらくらしながらも、ああ、この人本当に普通の高校生になりたかったんだな、と思った。こんな笑顔を他の女子が見たら、即、ライン交換しよう、の流れではないか。

きっと、そうやって友達になっているクラスメイトもいるだろうとは思う。でもあかねは心を入れ替えたのだ。あくまでも玲人の学校生活の防波堤でありたかった。彼のたぐいまれなるルックスと、元々備わっている華やかなオーラで友達を惹きつけてしまうのはやむを得ない。しかし過剰に降りかかる憧れ故の視線からは遠ざけたかった。あかねがそうしないことで、視線の矢のひとつは確実にへし折ることが出来る。

「えー、であるからして、紫式部は……」

先生の話が続く中、あかねはノートをとる作業の合間にちらと横を盗み見た。
教科書に目を落とす玲人のまつげのなんと長いことか。しかしそんな様子に見惚れないよう、あかねは黒板とノートの上へ視線を動かした。先生の板書を書きとっておかないと、玲人が何か助けを求めた時に力になってあげられない。あかねは肘が触れそうなくらい近くに居る推しの気配を感じないように努めて、授業に集中した。