結局出し物はそのまま執事喫茶に決まった。ホームルームが終わり、教室がざわめく中、玲人は隣のあかねに声をかけてくれた。
「高橋さん、僕のことを考えてくれてありがとう」
「ううん……。暁くんが構わないんだったらいいんだけど、……本当に良かったの?」
万に一つでも玲人が無理をしているのだったら、それは『普通の高校生』を楽しめていないことになる。今なら、もう一度話し合いの場を持つことだって可能かもしれない。そう思って確認すると、本当にいいんだよ、と玲人が楽しそうに微笑んだ。
「僕、前の学校のままだったら、準備に時間のかかる文化祭なんて体験できなかったからさ。だから、みんなと文化祭の準備が出来るのが、凄く嬉しいんだ」
そうか。玲人が楽しんでいるのならもう何も言わない。あかねも笑って、そうなんだね、と応えた。
「高橋さんはやさしいよね。授業の遅れの事気にしてくれたり、僕一人が目立つみたいになることを気にしてくれたり」
でも、疑いのない純粋なまなざしで目を見られると、ちょっと心臓に針がぶすっと刺さったみたいに痛い。あかねは力なく、ううん、そんなことないよ、と言って俯くしかなかった。あかねの罪悪感を払しょくするように玲人があかねの顔を覗き込んで言った。
「僕、席が高橋さんの隣で良かったな。高橋さんと友達になれて良かったよ」
間近で見る推しの顔は爆裂的にきれいで美しくて世の中の全てを浄化するような微笑みだった。バクン! と心臓が拍動を打って、そのまま体中を疾走する。ぶわあーっと顔が赤くなったのを自覚した。ほっぺたがめちゃくちゃ熱い。
「あ、近かった?」
ごめんね、距離感分からなくて。
照れてそういう玲人は、でもあかねの顔を覗き込んだまま、こう言った。
――「今日、一緒に駅まで帰らない?」