さて。部屋に一人残されたミリアではあるが、今日は今日で大事な日。そう、今日はシャイナと魔導士団長の息子であるレイフのイベントの日なのだ。イベント発生は昼過ぎから。まだ時間はある。
 後片付けをさっとすませて、またミリアは例のタブレットを手にする。これにシャイナとレイフイベントを収めるのだ。

 イベント場所は、確かこの建物の裏庭。ここは花が咲き乱れている場所。レイフの魔力に誘導されて、この花たちがざわざわと騒ぎ始めるところからイベントは始まる。
 イベントまでに少し時間はあるけれど、ミリアは花の影に隠れて待機した。しばらくそうしていた頃、花がざわざわと揺れ始めた。どうやらレイフの魔力に反応しているらしい。
 その花たちの隙間から、ちょっと様子を伺ってみると、そこにはシャイナとレイフが向かい合って立っていた。
 つまり、イベント開始、ということだ。ミリアはタブレットをそっと構え、そんな二人をその中にそっと収める。

 はかなげなレイフの瞳。彼は父親とその能力を比較され、うだうだと悩んでいるのだ。それを励まし、彼を立派な魔導士へと導くのがシャイナの役目。彼女のその言葉で、自信を取り戻したレイフは、シャイナと熱い抱擁を交わす、はず。もうその抱擁シーンは何度見ても見飽きることない。できることなら、このシーンもカレンダーに収めていただきたいくらいだ。
 早くこいこい、抱擁シーン、と。息を潜めて二人を見守っているミリアではあるが、その二人の雲行きが怪しい。本来であれば声を荒げるはずの無いシャイナが、声を張っている。

「それでも男ですか。何をうだうだ悩んでいるの?」

 ちっがーう。そのセリフはレイフにとっては逆効果。シャイナはレイフの悩みを黙って聞き、そしてその彼の両手を取る。その後。

「レイフ様はレイフ様ですから。お父様と比べる必要はありません。レイフ様にはレイフ様の良さがあります。皆、それには気付いていないのです」

 と言って、彼を見上げてから温かく微笑む。
 はずなのに。

「まったくもう、面倒くさい男ね。うだうだ悩んでいるくらいなら、気合を注入してあげるわ」

 やばい、流れがおかしいと思ったミリアは、隠れていたにも関わらずその身を二人の前に晒してしまう。シャイナが右手を振り上げていたため、その手を押さえつけた。