ミリアはベッドでごろごろと転がりながら、チートアイテムタブレット内に収められているシャイナを愛でていた。カレンダーの背景にできるくらいのカインとのツーショット写真。そんなカレンダーが発売されたのであれば、ミリアの中の人は間違いなく課金して、普段使い用、保存用、予備用として少なくとも3セットはお買い上げしたことだろう。と悶えるくらい、何度見ても飽きない。心が弾む。弾んだついでに、足をバタバタと動かして、とにかく喜んでいるミリア。
軟禁部屋の扉をノックされたことに気付き、ふと我に返る。恐らくアドニスだろう。彼は食事を運んでくれるだけでなく、何かとミリアを気にかけてくれる。
「はい」
タブレットを枕の下に隠し、急いでベッドから降りて、そしてなんとなく髪の毛と服を整えてから、返事をした。
恐る恐る扉を開けて中に入ってきたのは、やはりアドニスだった。
「ああ、ミリア。もしかして寝ていた?」
「あ。はい、あ、まあ」
と曖昧に答えるミリア。
「そ、その。夜はあまり眠れないもので」
そう、興奮してアドレナリンがどっぱどっぱ出ているがため、よく眠れていないというのは本当。
「ごめん、ミリア」
どうやらアドニスは眠れない理由を盛大に勘違いしてくれているらしい。
ミリアはソファに座るようにアドニスを促した。ここには侍女とか世話をしてくれる人がいないため、ミリアが自分でお茶を淹れる。まあ、この辺の準備をしてくれたのもアドニス。お茶とお菓子と推しがあれば、ミリアの中の人は一日を過ごせるから、ある意味ここの空間は彼女にとっては快適だった。
「それでアドニス様。今日はどのようなご用件ですか?」
お茶を差し出しながら、ミリアは尋ねた。
「いや、その。君の様子を見にきた」
さっきも食事を持って来たばかりなのにな、とミリアは思う。できることなら、アドニスと話をするよりもシャイナを堪能していたい、という本音。それが漏れないようにしなければ、と思う。
「ミリア。君は聖女シャイナに何をしたのか、僕に教えてくれないだろうか」
ミリアがシャイナに何をしたか。ゆっくりとカップを持ち上げて、ミリアは思い出そうとする。
そもそも、本来のゲームの流れであればミリアはこの王城の井戸に毒をいれようとしていた。それをシャイナに気付かれてしまい、という流れなのだが、今の展開はそうではない。
シャイナの飲み物に毒をいれ、それがエドモンドにばれてしまった、という流れになっている。だから、その後が本来のゲームの流れと異なってきているのか、とミリアは思った。
本来の流れ、ミリアはこんな素敵な部屋での軟禁ではなく、地下牢でただその処刑の日を待つだけの日々を送るという流れ。
「そう、ですね。私がシャイナの飲み物に毒を入れた、ということになっているようですね」
「やはり、なっている、ということは。本当は、君はそんなことをしていないのだろう?」
アドニスのその言葉に、ミリアはさあ? と首を傾けた。それは、本当に覚えていないから。中の人の記憶とミリアとしての記憶が混ざり合って、肝心なところが曖昧になっているから。
「君は。誰をかばっているんだ?」
「誰も」
言い、ミリアはカップに口をつけた。
まるでこれでは言葉の遊び。アドニスの問いにものらりくらりと交わされてしまう。
「このままでは君は、処刑されてしまうんだぞ。死ぬんだぞ?」
「それが、皆の望みであれば」
「ミリア。なぜ、生きることに貪欲にならない。なぜ、死に急ぐ?」
「それが私の運命であると、そう思っているだけです」
そこでミリアは手にしていたカップをテーブルの上に戻した。
「その運命を捻じ伏せようとは、思わないのか」
「今のところは」
その答えを聞いたアドニスは音を立てて立ち上がる。
「僕は。君が無実であると信じているし、君に生きていてもらいたいと、そう思っている」
乱暴に扉を開け、部屋を出ていくアドニス。ミリアはその背を見送ることしかできない。
なんだったのだろう、あれは。というのが、ミリアの中の人の気持ち。
軟禁部屋の扉をノックされたことに気付き、ふと我に返る。恐らくアドニスだろう。彼は食事を運んでくれるだけでなく、何かとミリアを気にかけてくれる。
「はい」
タブレットを枕の下に隠し、急いでベッドから降りて、そしてなんとなく髪の毛と服を整えてから、返事をした。
恐る恐る扉を開けて中に入ってきたのは、やはりアドニスだった。
「ああ、ミリア。もしかして寝ていた?」
「あ。はい、あ、まあ」
と曖昧に答えるミリア。
「そ、その。夜はあまり眠れないもので」
そう、興奮してアドレナリンがどっぱどっぱ出ているがため、よく眠れていないというのは本当。
「ごめん、ミリア」
どうやらアドニスは眠れない理由を盛大に勘違いしてくれているらしい。
ミリアはソファに座るようにアドニスを促した。ここには侍女とか世話をしてくれる人がいないため、ミリアが自分でお茶を淹れる。まあ、この辺の準備をしてくれたのもアドニス。お茶とお菓子と推しがあれば、ミリアの中の人は一日を過ごせるから、ある意味ここの空間は彼女にとっては快適だった。
「それでアドニス様。今日はどのようなご用件ですか?」
お茶を差し出しながら、ミリアは尋ねた。
「いや、その。君の様子を見にきた」
さっきも食事を持って来たばかりなのにな、とミリアは思う。できることなら、アドニスと話をするよりもシャイナを堪能していたい、という本音。それが漏れないようにしなければ、と思う。
「ミリア。君は聖女シャイナに何をしたのか、僕に教えてくれないだろうか」
ミリアがシャイナに何をしたか。ゆっくりとカップを持ち上げて、ミリアは思い出そうとする。
そもそも、本来のゲームの流れであればミリアはこの王城の井戸に毒をいれようとしていた。それをシャイナに気付かれてしまい、という流れなのだが、今の展開はそうではない。
シャイナの飲み物に毒をいれ、それがエドモンドにばれてしまった、という流れになっている。だから、その後が本来のゲームの流れと異なってきているのか、とミリアは思った。
本来の流れ、ミリアはこんな素敵な部屋での軟禁ではなく、地下牢でただその処刑の日を待つだけの日々を送るという流れ。
「そう、ですね。私がシャイナの飲み物に毒を入れた、ということになっているようですね」
「やはり、なっている、ということは。本当は、君はそんなことをしていないのだろう?」
アドニスのその言葉に、ミリアはさあ? と首を傾けた。それは、本当に覚えていないから。中の人の記憶とミリアとしての記憶が混ざり合って、肝心なところが曖昧になっているから。
「君は。誰をかばっているんだ?」
「誰も」
言い、ミリアはカップに口をつけた。
まるでこれでは言葉の遊び。アドニスの問いにものらりくらりと交わされてしまう。
「このままでは君は、処刑されてしまうんだぞ。死ぬんだぞ?」
「それが、皆の望みであれば」
「ミリア。なぜ、生きることに貪欲にならない。なぜ、死に急ぐ?」
「それが私の運命であると、そう思っているだけです」
そこでミリアは手にしていたカップをテーブルの上に戻した。
「その運命を捻じ伏せようとは、思わないのか」
「今のところは」
その答えを聞いたアドニスは音を立てて立ち上がる。
「僕は。君が無実であると信じているし、君に生きていてもらいたいと、そう思っている」
乱暴に扉を開け、部屋を出ていくアドニス。ミリアはその背を見送ることしかできない。
なんだったのだろう、あれは。というのが、ミリアの中の人の気持ち。