「おやめなさい」

 とうとう我慢できずに、ミリアはその身を晒してしまった。二人の視線が捕らえた先はもちろんミリアの姿。

「ミリア」
「ミリア嬢」

「シャイナ。あなたは口を慎みなさい。もう少しカイン様に寄り添いなさい」
 ミリアからつい出てしまった言葉がそれ。

「え?」と驚くシャイナ。そして、何も言えないカイン。

「シャイナ。あなたには優しさがあるのです。カイン様の御心を救う。その優しさは、言葉で表すことができるものでもありません。あなたの優しさ、それはあなたの笑顔に溢れているのです」

 そこでミリアはシャイナの手を取った。

「どうかシャイナ。自信を持って。あなたはこの国を災いから救うとされている聖女様なのですから。そしてその素敵な笑顔をカイン様に向けてください」

「ミリア、あなた……」

 それ以上何も言うな、というかのようにミリアはゆっくりと首を横に振った。

「あなたがカイン様を救ってくれなかったら、私の処刑ざれ損です。どうか、カイン様の御心を救ってください」

 そう伝えると、ミリアは一人満足げに頷き、シャイナの手を離して建物の向こうへと消え去った。彼女はその場から消え去っただけであり、もちろんシャイナ達から見つからないようにそっと二人を見守っている。

 シャイナは黙ってカインの手を取る。そして、彼を見上げ、微笑む。それに釣られカインもぎこちなく笑む。

 これだよ、これ、とミリアの心は弾んでいる。チートアイテムのタブレットを取り出し、記憶に残す。部屋に戻って堪能しよう。

 ありがとうシャイナ。ミリアはタブレットを両手で大事そうに抱きかかえてから、いそいそと鞄の中にしまった。