それから二日後。朝起きると、枕元にミリアの中の人が使っていたスマホというものがあった。いや、通話機能がないからタブレットかもしれない。ただ、手のひらサイズに収まるようなその板。

 夢、万歳。本当に自分の都合のいいようにできている。しかも今日はミリアとカインのイベントの日。それに間に合うかのように表れたこれ。つまり、チートアイテムというやつか。ここまでお膳立てされたのであれば、やるしかない。

「ミリア。食事を持ってきたよ」

 と、いつもこの部屋に食事を運んでくれるのはアドニスだ。なぜかアドニス自ら、食事を運んでくれる。
 本当に申し訳ない。申し訳なさ過ぎて、土下座したくなるのが、ミリアの中の人の性格。
 さすがに土下座まではいかなくても「悪いわ」とミリアが一言伝えると、アドニスは「好きでやっていることだから気にしないで」と言っていた。
 そう言われても気にする。気にするなというほうが無理。

 いつの間にか枕元にあったスマホではなくタブレットがばれないように、そっと枕の下に隠してから、立ち上がる。

「いつもありがとうございます、アドニス様」
 ミリアは笑顔で朝食を受け取った。

「その、兄が言ったミリアの処刑日まであと8日しかないのに、何もできなくてごめん」

「アドニス様。お気になさらないでください。本来であれば監禁の身、もしくは地下牢に入れられてもおかしくない身分なのに、こうやって食事も与えられ、自由に散策できているのですから。それだけで充分です」

「だが、8日後には君は処刑される。今、兄がそう働きかけている。僕のほうでもいろいろと動いているのだが、何しろ相手があの兄と聖女様だから。なかなか思うようにはいかなくて……」

「アドニス様のそのお気持ちだけで充分です」

 むしろ、ヒロイン聖女シャイナがあの五人に囲まれながら死ねるなら、それこそ本望。
 そしてあのタブレットにばっちりと撮り収めて、できることならお墓に一緒に埋めていただきたい。あの世でも堪能したい。
 だけど、処刑される身となれば、お墓に埋められることはないだろうな、とも思う。それだけが心残りかもしれない。

 アドニスはいつも、ミリアが食事をしているのを黙って見ていた。そして、彼女が食事を終えると、黙ってそれを片付ける。
 ひと様に見られて食事をするのって、ものすごく緊張するのに、アドニスはそれに気付いてくれない。ミリアは恨めしそうにアドニスを見ていた。アドニスは不思議そうにミリアを見つめていた。