なんと。あのイベントってそういうことだったの、とミリアは思っている。逆ハーじゃなかったのか、と。だから流れがおかしかったのか、と。
 気合注入とか、殴られそうになるとか、それって全部ミリアのせいだったのか、と。

「兄さん。ミリアを解放してください」
 腹の底から響くような声でアドニスが言った。
「そもそも、兄さんにはミリアを処刑するような権利も、拘束するような権利も無いはずだ。まして彼女を裁くような権利もね」

「アドニス……」

「ここに父上がいなかったことに感謝した方がいいですよ」
 ふふっとアドニスが笑った。
「父上も、兄さんの我儘や思い込みには頭を悩ませているようですからね」

 わ、我儘だと? 思い込みだと?
 ミリアの頭の中がぐらぐらとしてきた。

「エド様。お願いです、どうかミリアを解放してください」
 シャイナが必死で訴えている。困った。これではシャイナの逆ハールートにならないではないか。

「兄さん。今までのシャイナ嬢の話を聞いていてもわかるように、ミリアには捕らえられる理由がないのですよ」

「くっそ」っとその言葉を激しく吐き捨てたエドモンドは、苦々しい視線をミリアに向け、近衛騎士にその拘束を解くように言った。

「ミリア。ごめん。そして、ありがとう」
 シャイナが駆けつけて、ミリアをぎゅっと抱きしめる。

「シャイナ……」

「友達の抱擁、でしょ?」
 シャイナは目尻に涙をためながら、そんなことを言うのだが、ミリアの頭の中は大混乱。
 処刑ルートにのらなかったということは、シャイナは逆ハールートにはならなかったということで。

「兄さん、もう少し確認してから行動に起こした方がよろしいですよ。今回の件は、父には伝えるつもりはありませんが」

 アドニスが高圧的に言った。ぐぬぬぬと、エドモンドは声にならない声で嘆いている。

「ですが、兄さんとミリア嬢の婚約は正式に解消されている。だから、兄さんはもうミリア嬢と関わることが無い、そういうことでよろしいですよね?」

「ああ」
 乱暴に返事をするエドモンドは。
「シャイナ」
 と聖女の名を呼ぶ。名を呼ばれた彼女は戸惑いの瞳をミリアに向けた。

「私のことは気にしないで。あなたは、あなたの幸せの道を選んで」
 ミリアがそっとシャイナの両腕を掴んでそう言うと、シャイナはゆっくりと頷いた。そして、エドモンドのところへと向かう。

 逆ハールートは逃してしまったが、ここは無難にエドモンドルートを攻略してもらおう。ミリアはそう思ったのだが。