ミリアがやってきたのは訓練場の建物の裏。やはり、シャイナとケビンはここにいた。二人に気付かれないように、そっと物陰に隠れる。ミリアの後ろに誰かの気配がすると思って振り向いたら、アドニスだった。
「アドニス様」
「しっ」
アドニスの視線の先にはシャイナとケビンの姿がある。
「あの女。兄さんだけでなく他の男にも手を出していたのか?」
「誤解です、アドニス様。彼女は彼らを励ましているだけ」
なぜ君がそれを口にする? という思いをこめて、アドニスはミリアを見つめたが、ミリアの目にすでにアドニスの姿は無く、じっとあの二人を見守っているだけだった。
父と同じ道を進まなければならないという圧力に押しつぶされそうになっているケビンに対し、あなたは自分で自分の道を選べばいいというシャイナ。そこで二人は熱い抱擁を、という流れのはずなのに。
そこにまとわりつく空気の流れがおかしい。そのような甘い雰囲気にならないのだ。
「お前に何がわかる」
ケビンの怒鳴り声。
「俺の好きなように好きに生きろ、だと? 俺は、父の跡を継ぐ必要があるんだ。自由気ままに生きているお前とは違うんだ」
そう、違う。本来の流れと違う。そしてミリアはそのケビンが次に何をするのか、ということがなんとなく予想がついた。だから、隠れていたにも関わらず飛び出してしまったのだ。
「ミリア」
と、名前を呼ぶ声は恐らくアドニスのもの。
「ミリア?」
と、その声はシャイナのもの。
「ミリア嬢」
とその手を握りしめながら名を呼んだのはケビン。
ケビンが振り上げた右手は、思い切りミリアの左頬に当たった。その勢いで彼女は横に吹っ飛び、尻もちをつく。
「ミリア、あなた……」
シャイナが手で口元を押さえながら、ミリアを見下ろしていた。彼女はニコリと笑うと、すっと立ち上がり、服についた土をパンパンと払い、じっとケビンを見上げた。
「ケビン様。どうか自分の心の声と向き合ってくださいませ。シャイナはそれを伝えたかったのです」
ペコリと頭を下げると、ミリアはそそくさと建物のほうへと歩いていく。
「ミリア嬢、その、すまない」
という声が背中から聞こえてきたけれど、ミリアはけして振り向くことはしない。あの二人の仲を邪魔してはならないのだ。
その建物の角を曲がり、彼らの視界から消え去ったミリアはまたタブレットを取り出した。これから始まる二人のイベント。これを見逃してしまったら、殴られ損だ。
という思いがあって夢中になってしまったのかもしれない。だからすっかりと忘れていたのだ。そこにアドニスがいるということを。
「アドニス様」
「しっ」
アドニスの視線の先にはシャイナとケビンの姿がある。
「あの女。兄さんだけでなく他の男にも手を出していたのか?」
「誤解です、アドニス様。彼女は彼らを励ましているだけ」
なぜ君がそれを口にする? という思いをこめて、アドニスはミリアを見つめたが、ミリアの目にすでにアドニスの姿は無く、じっとあの二人を見守っているだけだった。
父と同じ道を進まなければならないという圧力に押しつぶされそうになっているケビンに対し、あなたは自分で自分の道を選べばいいというシャイナ。そこで二人は熱い抱擁を、という流れのはずなのに。
そこにまとわりつく空気の流れがおかしい。そのような甘い雰囲気にならないのだ。
「お前に何がわかる」
ケビンの怒鳴り声。
「俺の好きなように好きに生きろ、だと? 俺は、父の跡を継ぐ必要があるんだ。自由気ままに生きているお前とは違うんだ」
そう、違う。本来の流れと違う。そしてミリアはそのケビンが次に何をするのか、ということがなんとなく予想がついた。だから、隠れていたにも関わらず飛び出してしまったのだ。
「ミリア」
と、名前を呼ぶ声は恐らくアドニスのもの。
「ミリア?」
と、その声はシャイナのもの。
「ミリア嬢」
とその手を握りしめながら名を呼んだのはケビン。
ケビンが振り上げた右手は、思い切りミリアの左頬に当たった。その勢いで彼女は横に吹っ飛び、尻もちをつく。
「ミリア、あなた……」
シャイナが手で口元を押さえながら、ミリアを見下ろしていた。彼女はニコリと笑うと、すっと立ち上がり、服についた土をパンパンと払い、じっとケビンを見上げた。
「ケビン様。どうか自分の心の声と向き合ってくださいませ。シャイナはそれを伝えたかったのです」
ペコリと頭を下げると、ミリアはそそくさと建物のほうへと歩いていく。
「ミリア嬢、その、すまない」
という声が背中から聞こえてきたけれど、ミリアはけして振り向くことはしない。あの二人の仲を邪魔してはならないのだ。
その建物の角を曲がり、彼らの視界から消え去ったミリアはまたタブレットを取り出した。これから始まる二人のイベント。これを見逃してしまったら、殴られ損だ。
という思いがあって夢中になってしまったのかもしれない。だからすっかりと忘れていたのだ。そこにアドニスがいるということを。