「おやめなさい、シャイナ」

 ふりおろすはずだった右手が動かない。シャイナの手を押さえつけているのは、ミリア。

「ミリア」
「ミリア嬢」

 シャイナは顔だけをミリアの方に向ける。レイフも驚き、その視線をしっかりとミリアをとらえている。

「シャイナ。このように手を振り上げるようなことをしてはなりません。気合を注入しなくても、レイフ様はわかってくださいますよ。レイフ様に必要なのは気合の注入ではありません」

 んぬぬぬぬーと言いながら、シャイナの右手がミリアから逃げようとしているため、ミリアはその手を離した。

「シャイナ。あなたの心の中にはたくさんの温かい言葉が溢れているのです。その言葉をレイフ様におかけください。レイフ様はあなたからの温かい言葉を待っています。レイフ様にはレイフ様のよさがある、と。どうぞその温かい言葉をレイフ様におかけください」

「ミリア、あなた……」

 それ以上何も言うな、というかのようにミリアはゆっくりと首を横に振った。

「あなたがレイフ様を救ってくれなかったら、私の処刑ざれ損です。どうか、レイフ様の御心を救ってください」

 そして、ミリアはそっとそこから立ち去る。立ち去るが、二人から見えない場所に隠れただけであり、その二人をこっそりと見守っているわけで。

 シャイナは黙ってレイフの両手を取る。いいぞいいぞ、と影ながら応援するミリア。
 そして、ミリアが待っていた熱い抱擁へ。
 しっかりとそれをタブレットに収めるミリア。良かった、これで三月四月のカレンダーの背景が無地にならなくて、と、作られる予定の無いカレンダーのことを考えていたのだった。