「ミリア・ユグリス。お前との婚約を破棄することを、ここに宣言する」
という流行りの展開の中に置かれてしまった女性が一人。その向かい側にはお見目麗しい金髪ふわふわ碧眼の男と、ゆるふわ茶髪でお目目くりくりの女性がその男に腕を絡ませながら立っている。
「エドモンド様、なぜですか?」
「ええい、見苦しいぞ、ミリア。この期に及んで、言い訳をするつもりか?」
言い訳をするつもりではない。ただ、理由を聞きたいだけ。
「貴様がこの聖女シャイナに行った仕打ち、忘れたとは言わせないぞ」
忘れてはいない。心当たりが無いだけ。
「お前は十日後に処刑だ。おい、さっさとひっ捕らえろ」
と、エドモンドと呼ばれた男が周囲にいた近衛騎士へ命令する。このエドモンドという男、こう見えても実は、この国の第一王子だったりもする。
「兄さん」
と、少し幼い声が響いた。
「処刑とかひっ捕らえろとか、少し乱暴ではありませんか? きちんとミリア嬢の話も聞くべきです」
ゆっくりとその間に入ってきたのが、アドニスという男。エドモンドを兄さんと呼ぶだけのことはあり、そのエドモンドの弟。年は、一つ下。
「事を急ぎ過ぎると、兄さんの人としての器が疑われます。ここはまず、ミリア嬢には謹慎してもらいましょう」
「ぐぬぬ……アドニスがそう言うなら」
というエドモンドは、アドニスに反論できるだけのネタが思い浮かばない。
「エドモンド様。婚約の件は解消された、ということでよろしいでしょうか」
渦中の人であるミリアが声をあげた。
「もちろんだ。さっさと用紙を届ける。お前はそれにサインをしろ」
「承知しました」
優雅に頭を下げるミリア。そして、去り行く二人の後姿を見送った。
ふう、と彼女は息を吐く。
「ミリア。このたびは、兄が大変失礼なことを」
アドニスが頭を下げた。
「いいえ、アドニス様。頭をお上げください。これを機に婚約解消できた、ということは、それだけの縁だったということでしょう」
ミリアは笑顔を絶やすことなくそう答えた。
「それに、あなたを処刑だなんて。兄にそんな権力は無いはずなのに」
「エドモンド様がそれを私に望んでいるのであれば、私はそれを受け入れるだけです」
「……っ。ミリア」
アドニスが、息を飲み込んでからミリアの名を呼んだ。
「僕の方からも兄には働きかけてみるつもりだが。だが、それがうまくいくまではここで大人しくしておいて欲しい」
アドニスの言うここ。つまり、王城内、ということか。
「父にはなんて?」
ミリアが気になっていたのは、自分の両親とそして弟。
「そちらにも僕の方から説明しておく」
「まあ、アドニス様。お気遣いありがとうございます。父に会いましたら、どうぞよろしくお伝えください。ミリアは元気にしております、と」
「君は。この状況において、なぜそんなに落ち着いていられるのだ? あの兄が十日後に処刑と言っていた。もしかすると、あの兄のことだから本当にそうするつもりで動くかもしれない」
「そのときはそのときです。それを己の運命として受け入れるだけです」
アドニスはこの目の前の儚げで芯のある女性を抱きしめたくなった。だが今、ここでそのようなことをして、彼女に良くない噂の原因となるものを作ってしまうのは彼女にとってはマイナスの要因となるだろう。
「ミリア嬢。部屋を案内する。こちらから連絡があるまで、その部屋で謹慎するように」
アドニスは心の叫びを押さえつけながら、冷静にそう言った。
そして、ミリアを部屋へと案内する。
その部屋は石造りで殺風景な部屋、ではなく、きちんとした客室で温かな色合いと空調の効いた部屋だった。
「このような立派なお部屋を。もったいないことです」
ミリアが言う。
「別に、地下牢とかでもかまいませんよ」
「何もしていないミリアを、地下牢に入れる理由もない」
アドニスは何もしていない、と言った。もしかして、このアドニスはわかっているのだろうか。
「アドニス様のお心遣いに感謝いたします」
ミリアは心の中を悟られないように、深く頭を下げた。アドニスは何か言いたげに右手を伸ばしたのだが、その手に気付いてすっと戻す。
「ミリア。また来る」
言うと、アドニスはその部屋を出て行った。
という流行りの展開の中に置かれてしまった女性が一人。その向かい側にはお見目麗しい金髪ふわふわ碧眼の男と、ゆるふわ茶髪でお目目くりくりの女性がその男に腕を絡ませながら立っている。
「エドモンド様、なぜですか?」
「ええい、見苦しいぞ、ミリア。この期に及んで、言い訳をするつもりか?」
言い訳をするつもりではない。ただ、理由を聞きたいだけ。
「貴様がこの聖女シャイナに行った仕打ち、忘れたとは言わせないぞ」
忘れてはいない。心当たりが無いだけ。
「お前は十日後に処刑だ。おい、さっさとひっ捕らえろ」
と、エドモンドと呼ばれた男が周囲にいた近衛騎士へ命令する。このエドモンドという男、こう見えても実は、この国の第一王子だったりもする。
「兄さん」
と、少し幼い声が響いた。
「処刑とかひっ捕らえろとか、少し乱暴ではありませんか? きちんとミリア嬢の話も聞くべきです」
ゆっくりとその間に入ってきたのが、アドニスという男。エドモンドを兄さんと呼ぶだけのことはあり、そのエドモンドの弟。年は、一つ下。
「事を急ぎ過ぎると、兄さんの人としての器が疑われます。ここはまず、ミリア嬢には謹慎してもらいましょう」
「ぐぬぬ……アドニスがそう言うなら」
というエドモンドは、アドニスに反論できるだけのネタが思い浮かばない。
「エドモンド様。婚約の件は解消された、ということでよろしいでしょうか」
渦中の人であるミリアが声をあげた。
「もちろんだ。さっさと用紙を届ける。お前はそれにサインをしろ」
「承知しました」
優雅に頭を下げるミリア。そして、去り行く二人の後姿を見送った。
ふう、と彼女は息を吐く。
「ミリア。このたびは、兄が大変失礼なことを」
アドニスが頭を下げた。
「いいえ、アドニス様。頭をお上げください。これを機に婚約解消できた、ということは、それだけの縁だったということでしょう」
ミリアは笑顔を絶やすことなくそう答えた。
「それに、あなたを処刑だなんて。兄にそんな権力は無いはずなのに」
「エドモンド様がそれを私に望んでいるのであれば、私はそれを受け入れるだけです」
「……っ。ミリア」
アドニスが、息を飲み込んでからミリアの名を呼んだ。
「僕の方からも兄には働きかけてみるつもりだが。だが、それがうまくいくまではここで大人しくしておいて欲しい」
アドニスの言うここ。つまり、王城内、ということか。
「父にはなんて?」
ミリアが気になっていたのは、自分の両親とそして弟。
「そちらにも僕の方から説明しておく」
「まあ、アドニス様。お気遣いありがとうございます。父に会いましたら、どうぞよろしくお伝えください。ミリアは元気にしております、と」
「君は。この状況において、なぜそんなに落ち着いていられるのだ? あの兄が十日後に処刑と言っていた。もしかすると、あの兄のことだから本当にそうするつもりで動くかもしれない」
「そのときはそのときです。それを己の運命として受け入れるだけです」
アドニスはこの目の前の儚げで芯のある女性を抱きしめたくなった。だが今、ここでそのようなことをして、彼女に良くない噂の原因となるものを作ってしまうのは彼女にとってはマイナスの要因となるだろう。
「ミリア嬢。部屋を案内する。こちらから連絡があるまで、その部屋で謹慎するように」
アドニスは心の叫びを押さえつけながら、冷静にそう言った。
そして、ミリアを部屋へと案内する。
その部屋は石造りで殺風景な部屋、ではなく、きちんとした客室で温かな色合いと空調の効いた部屋だった。
「このような立派なお部屋を。もったいないことです」
ミリアが言う。
「別に、地下牢とかでもかまいませんよ」
「何もしていないミリアを、地下牢に入れる理由もない」
アドニスは何もしていない、と言った。もしかして、このアドニスはわかっているのだろうか。
「アドニス様のお心遣いに感謝いたします」
ミリアは心の中を悟られないように、深く頭を下げた。アドニスは何か言いたげに右手を伸ばしたのだが、その手に気付いてすっと戻す。
「ミリア。また来る」
言うと、アドニスはその部屋を出て行った。