「王子を殺して帰っておいでなさい。魔女の短刀で刺して血を浴びれば、あなたは人魚に戻れるわ」

 僕が恐ろしい真実を聞いてしまったのは、花嫁花婿となった王子と姫が、船上で初夜を過ごす夜を夜警しているときだった。

「お願いだから帰ってきて。あなたが心配で、人魚の世界は毎日啜り泣気が聞こえない日がないわ。父上も、おばあさまもすっかり……」
「王子が他の女と成就したならば、あなたは朝日に溶けて泡になって消えてしまう。全てを投げ打って恋をしたあなたが、王子のために消えなくてもいいじゃない」

 僕は口を両手で塞いで息を殺し、僕は壁に背をつけて耳を済ませた。
 空には満天の星。ゆらゆらと優しく揺れる甲板。東の空の端はちりちりと赤く染まっている。もうすぐ、朝がくる。