僕はモニターに囲まれるかたちで設置されている高級そうなリクライニングチェアに腰かけ、その座り心地を確かめる。……悪くない。
 肘掛けの先端には、モニターを操作するためのものと思われるタッチパッドのような機器が埋め込まれていた。
 この部屋でする「仕事」というのが、監視員としてモニターを眺めるだけのことなのだとすれば、なんと楽な仕事だろうか。世界一楽な仕事なのではないか?
 そうだ。きっと僕はその仕事に選ばれたのだ。そうに違いない。
 僕は肘掛けのタッチパッドを指先で無意味になぞり、モニター内のポインタをくるくると回転させた。
 気になったのは、ビジネスホテル然とした室内設備・備品の中に、肝心のベッドが存在しないことだった。トイレ・バスルームはあるものの、寝室は設けられていない。ベッドがないようでは、程度の差こそあれ、これではネットカフェの個室と変わらない。
 ……まあ、ネットカフェというのは、言いすぎか。……いや? しかし娯楽が一つもないじゃないか。「ささ、」の男はここを「住居兼仕事場」だと言った。けれど一冊の漫画本もないのだ。モニターの前に配置されている小さなテーブルの上には、やはりホテルにあるような電話機が一台と、手帳用の下敷きみたいな板が一枚、無造作に置かれている。
 手に取ってみると、それが見たことのない型のタブレット端末であることが分かる。一般的なタブレット端末にしては小さく、タッチパネル式の携帯型デジタル音楽プレイヤーにしては大きく、スマートフォンにしては薄い。電子書籍を読むための専用端末に、だいたいこれくらいのサイズ感のものがあったな、と思い当たる。
 まあともあれそのタブレット端末に触れたところ、タッチパネルらしい画面には部屋の表札と同じ三日月マークが表示され、続いてその三日月に被さるようにして(どうやら三日月マークは壁紙のようだ)『指紋の登録が完了しました』なるメッセージが表示された。やれやれ。
 指紋の登録が済むと、端末の画面に整然とアイコンメニューが並べられていく。僕はその中の『映画』というアイコンに触れてみる。すると画面の中に映画のタイトルが羅列された。