ちょうど今、バイト帰りに寄ったいつものコンビニで、申し込んでおいたアイチドームでのプロ野球開幕三連戦のチケット代金を払い込み、チケットを発券してもらうところだ。
 店員はレシートに印刷されたバーコードを手際良く読み取ると、僕に払い込み金額を告げ、「そういうマニュアルだから仕方なく」といった感じで「チケットの内容にお間違いはありませんか」と訊ね、それからボールペンを差し出してレシート下部の署名欄へのサインを求め……これはもうチケットを入れる以外に使い道がないぞというような細長い紙ケースにチケットを入れて、それを僕に渡した。
 店外へ出ると、僕は紙ケースを開いて、券面に印刷された『レストラン・カウンターシート』の文字を再度確認する。
 一般発売チケットの中では最もバッターボックスに近い『内野S席』と最後まで迷ったが、僕は最終的に、三階のアリーナビュー・レストランでコース料理を楽しみながら試合を観ることができるその席を選択した。有給休暇もすでに申請してある。
 野球を観ながらコース料理、だってさ。笑ってしまう。
 見慣れた深夜の生活道路。やがて僕は、封印された空き地に突き当たる。そのブロック塀の先に、城は――監視塔は、見えなかった。どんなに目を凝らしても、遠くからでは見えないのだ。
 角を曲がると、僕はあの日と同じように小石を拾い、それをブロック塀に擦りつけながら歩いた。けれど窪んだブロックは見つけられない。
 いつも通り、途中から手に力を込め、……ガリガリ、心電図にも似た波線を、塀に刻んでいく。数え切れないほどの脈拍。でも心の中では分かっていた。足場はもう、埋められてしまったのだ。
 向かいから三人の若い男が歩いてくる。僕は小石を塀から離し、掌に握り込むと、顔を伏せてやり過ごそうとした。でもすれ違いざま、その男たちの会話が耳に入ると、僕は思わず立ち止まり、男たちのほうを振り返る。
「今、なんて言いました?」