僕はオオシマイヨが来るのを待ち続けた。全てのトレーニング器具を試し、ジャグジーに二度浸かり、休憩室のドリンクディスペンサーでココアコーラを作って飲んだ。
 ……そうしているうちに夜になり、体育館からボールの弾む音が聞こえてきた。

「おうミカズキ、今日はバレーだぞ」
 体育館に足を運ぶと、そこには普段より明らかに多くの男たちが、肘と膝に黒いサポーターをつけ、きちんとしたシューズを履き、年齢に見合わぬ爽やかな汗をかいていた。
 試合前の練習時間はすでに終わり際のようで、四面あるコートの二面に四つのチームが分かれ、談笑交じりのくだけたミーティングを行っている。
 見たところ一チーム九人制の、いわゆる「ママさんバレー」と呼ばれる形式のようだ。
 九かける四。三十六人。審判も含めればもっとだ。……なんだよ、バレーならこれだけの人数が集まるんじゃないか。
 僕に話しかけてきたリーダー格の男は、いつも通りオレンジ色のビブスを着て、やはり肘と膝に黒いサポーターを着けていた。それに、バスケやフットサルをするときはまちまちなのに、今日はみんな半袖半ズボンで揃えている。笑えてくるな。気合の入れようが違う。上下ジャージ姿の僕は、どうやら場違いみたいだ。
「そういえば、今日は日曜でしたね」
「知らずに来たのか。ほら、ビブス」
 そう言って男は赤いビブスを放ってきた。……赤?
 僕は辺りを見回す。オレンジ、ブルー、グリーン、ブラック。赤いビブスを着た人間は一人もいない。……ああ、と僕は察する。オレンジのビブスが足りなくなったから、赤いビブスで代用しているのか?
「ミカズキ。三日月の部屋って、おまえだったよな」
 僕は不意に、背筋にさらりと冷たい水が流れていくような感覚を覚えた。気付けば、オレンジビブスチームの視線も、その他の色のビブスを着た者の視線も、――要するに体育館内の全ての視線が、僕に集まっていた。
 静まり返る館内に、時折、威嚇(いかく)のために指の間接を鳴らすかのごとく、誰かがボールを弾ませる。
「……そうですけど、それがどうかしたんですか?」
 作り笑いを浮かべ訊ね返すと、男は傍らに立つ女性を目で示した。女性。いつの間に?