そう誘ってきたのは、オレンジビブスチームのリーダー格の男だった。彼もやはり余分な肉を腹にため込んでいた。ただしその動きは、案外と素早い。
「祝勝会って。負けちゃったじゃないですか」
「なにを言ってるんだ、勝っただろ。審判に」
「確かに。あのファウル判定が覆ったのは、実質的勝利と言える」とこれは別の男が言う。やはり小太りの中年男性だが、眼鏡をかけているせいか、いくらか理知的に見える。
「はあ、分かりました。まあ……行きますよ」
 そんなわけで、飲めや食えやの祝勝会だ。みんな、いくら運動したって痩(や)せないわけだ。
「ところでミカズキは、最近入ったばかりなんだろう?」
「ええ、まあ。というか、一昨日の晩に入ったばかりで」
「二日で運動の重要性に気付くとは、良いセンスしてる。……それでさ、もしまだ『組合』に入ってないんだったら、ぜひ入ってあげてほしいんだ。もちろん強制はしないけど。彼ら、監視塔員の待遇改善のために、結構がんばってるみたいだし」
 眼鏡の男が言うと、「それは良い考えだ」とこれはまた別の男が、炭酸飲料の入ったグラスを掲げて合いの手を入れた。
 やや、これは巧妙な勧誘会だったのかなと僕は思ったが、「ええ? 組合の奴ら、あれは目立ちたいだけだろ」と否定的なことを言う者もいる辺り、どうやらそうではないらしい。
「待遇改善って、たとえばどんなことを訴えてるんです?」
 僕が慎重に声のトーンを選び訊ねると、答えようとした眼鏡の男の後ろから、ペットボトルの炭酸飲料を持ったリーダー格の男が現れて、眼鏡の男のグラスに黒い液体を注いだ。
「今叫ばれてるのは、主にアルコールとミュージックだな」
「アルコールとミュージック」僕はリーダー格の男の言葉を復唱した。
 彼はししおどしみたいな洗練された手つきで僕のグラスに炭酸飲料を注ぎ、七分目までいったところで、ボトルはちょうど空になった。
「頼める酒の量が決まってるんだ。一人一人、月単位でな」
「なるほど……まあ、僕はお酒飲まないので、あれですが」
 加えてたばこも吸わない。そういえばさっきから誰もたばこを吸わないけれど、やはり規制されているのだろうか。規制されているのであれば、同じように改善内容の一つに挙げられそうな気がするのだが。