しかしそれにしたって、こんな監視員生活を続けていたら、間違いなく不健康になる。リクライニングチェアに座り、モニターを眺めるばかりの生活なのだ。仕事も娯楽もろくに身体を動かさずに済んでしまう。
 しかも三食おやつ付きときている。これで太らない住人がいるのなら、それは紛れもなく仕事をしていない怠惰な人間だ。……おかしな話だけれど。
 四本目の映画を観終えた僕は、メモを見ながら「気付いたこと」を電話で伝え、それから部屋を出て、月が満ちゆく廊下を進み、エレベーターに乗った。その箱にはやはり階数ボタンはなく、扉が閉まると自動的に下へ参りますをして、『運動階』なるフロアへと僕を運んだ。エレベーターを出たところに、本当にそう書いてあったのだ。『運動階』と。
 その階のメインエリアはだだっ広い体育館のようになっていて、ちょうど小太りの中年男性たちがバスケットボールの試合を始めようとしているところだった。
「よかった、ちょうど一人足りなかったんだよ」
「? いや、でも、十人いるじゃないですか?」
「一人は審判だから。きみ、こっちのチームね」
「……あの、よければ僕が審判をやりますけど」
「審判って……きみできるのかい? 言っておくけど、俺たち、試合のジャッジには結構厳しいよ?」
「なるほど」なるほどじゃないぞ僕。ジャッジが厳しいなら分かるが、ジャッジに厳しいってなんだ。
 ともかくそんなやりとりの後、僕はオレンジビブスのチームに入り、フリスビーを追う犬のように素直にボールを追いかけた。息が切れ、滝のような汗をかいたけれど、途中何度も審判の裁定に誰かしらが文句をつけて試合が止まるので、それが良い休憩時間になった。
 試合が終わるころ、僕はチームのみんなとすっかり打ち解け、違和感なく彼らのニックネームを呼ぶことができるようになっていた。
「ところで、新入りくんはなんていう名前なんだ?」
「言ってなかったね。僕はオレミカズキって名前だ」
「ミカヅキ。変わった名前だな」
「違う。僕は、オレミ、カズキ」
「……ふむ。つまり、『ス』に点々で呼べばいいわけだな? 『ツ』に点々ではなく?」
「それでいいよ」僕は諦めてそう言った。「三日月の部屋のミカズキとでも呼んでくれ」
「三日月の部屋のミカズキ。この後俺の部屋で祝勝会やるんだが、おまえも来るだろ?」