「お疲れ〜」
「あー疲れたよー!」
3日間の期末テストが終わった。
毎日午前中まででテストは終わっていたけれど、3日目の開放感といったら。
「今日はもう、何もしない! いいね!」
「それ、いつもじゃん」
「そうそう」
テストが終わったその日まで、花鈴や真由も部活が休みらしく、いつも三人で「テスト明けの解放感に浸る会」を開く。といっても、ただ皆でカラオケに行くか、ご飯を食べにいくだけだ。高校生の遊びなんて、そんなもん。
あたしたちだけじゃなく、教室中から「終わった!」とか「帰って寝よう」とか、各々テスト終わりの喜びを味わっていた。
「皆、今日はお疲れ様でした。また明日から授業進むから、予習、忘れずにな」
帰りのホームルームで、早川先生の「予習」の一言に、クラスの皆、「え〜」と口を揃えて言った。
いや、いつもじゃん。
定期テスト後の恒例行事。
もう、今日は絶対に予習なんてしない!
クラスの誰もがそう心に決めたに違いない。
「里穂、かーえろ」
早々に帰り支度を終えた花鈴と真由が、教室の扉の向こうであたしを待っていた。
「うん、ちょっと待ってて」
急いで鞄に荷物をつめる。
外してあった『ブラック時計』が、きちんとポケットに入っているかも確認して。
「種田」
いつものように、隣にいる彼を呼んだ。
「ん」
他の皆と同じように、彼も早々に帰り支度を始めているところだった。
「あのね」
あたしは、教室から徐々に人がいなくなるのを横目で確認しながら、話を切り出した。
「話したいことが、あるの」
彼は、不意をつかれて「何?」と言うのも忘れたように、あたしの目をじっと見ていた。
「ここでは話せないから、明日でもいい?」
なんだそれ、とあたしだったら思う。
呼び止めたのはそっちなのに、今じゃなくて、明日話そうだなんて。
恥ずかしかったし、緊張した。
これ以上変なやつだと思われたら嫌だなって、恐れる気持ちもあった。
でも、彼は良い意味で、あたしの不安を裏切ってくれた。
「俺も、話したいから。明日な」
ぱっと、舞台が変わるように、目の前の視界が明るくなった。


「テストお疲れ〜!」
かんぱーい、と。
カラオケボックスの中。
お酒の飲めないあたしたちは、飲み放題のソフトドリンクを片手に、2学期の期末テストから解放された喜びに浸っていた。
「あー! 今日は歌う」
「疲れた」と言いながらシャキッと背筋を伸ばした真由が、マイクに手を伸ばしてなぜか「君が代」を歌い始める。
「いや、なんで国歌なのよ」
「いいじゃん。『君が代』がないと始まらないの」
「はいはい」
テスト明け。
高校生活で一番心が浮き立つ瞬間かもしれない。特に、あたしたちの通う朋藤高校では、成績優秀な人たちが揃っているので、テストにかける情熱が強い。
その分、テスト後の反動もすさまじく大きいというわけだ。
あたしみたいに普段は全然勉強していない人でもそうなんだから、花鈴や真由のように、部活をやりながら勉強している人たちはなおさらだろう。
けれど、今回は。
あたしだって、熱を入れていた。
勉強だけじゃない、いろんなものに。
真由が花鈴と交代して、ソファにどしっと座る。
ミーハーな花鈴は、流行りのアーティストの曲を歌い始める。
あたしたち三人の中では、彼女が一番歌が上手い。
花鈴の美しい歌声をバックミュージックに、真由は早速スマホをいじり出す。
カラオケでは、他人の歌を一生懸命聞かない。
あたしたち三人の暗黙のルール。
それが心地よいのだから、仕方がない。
立ち上がって歌う花鈴は、目の前にあたしと真由という観客がいることを忘れたように、目を閉じて身ぶり手ぶりを添えながら熱狂的に歌う。
最後に伸ばしたソプラノの音が消えるまで、彼女の声が、胸にじんと響いた。
「はい」と、力尽きる前の彼女が、あたしにマイクを回した。そのまま真由と同じように座りこんでしばらく呼吸を整える。
さあ、次はあたしの番。
あたしは今、どんな気分なんだろうか。
どんな歌を、歌おうか。