チャイムが鳴って、ホームルームが終わった。帰り支度を済ませた生徒たちが教室を出ていくなか、坂木くんが私の机に手をついてくる。
「トイレ行く?」
「……うん」
「わかった。先行っとくな」
 そう言って、大田くんと神谷さんに声をかけ、三人で教室をあとにする坂木くん。そして、それを見ている、教室に残った男子女子。
「三人でいつもどこ行くんだろうね」
「なんか、やらしー」
「いーなー大田たち、神谷さんと仲よくなれて」
 みんな思い思いのことを好き勝手言っている。体育のときの三人組女子も、ヒソヒソ話。聞き耳を立てなくても、「やっぱり神谷さんてさ」と聞こえてくるようだ。
 きっと、坂木くんや大田くん周辺の友達なら、図書委員の当番のこととか新聞作りのことを聞いているのだろうけれど、その人たちはすでに教室に残っていなかった。
 私は、説明しようかとも一瞬思ったけれど、体育のときの二の舞になりそうでやめた。まるでいない人間かのようにみんなの間をこそこそ縫って、教室を出たのだった。