「あ、私も見たかも。あんな子と並びたくないわー」
 長い黒髪の美人……。私は自分の伸ばしっぱなしの黒髪をさわる。……いやいや、断じて私ではない。
「あ、そろそろ時間ヤバくない? 体育館前、急ごう」
「うん」
 そう、今は入学式直前だ。私も急がなきゃいけない。落ち着くためにトイレに来たけれど、腹をくくろう。そう思って、女子たちが去ったのを確認して個室から出る。
 手を洗いながら、鏡を確認すると、昨日自分で切った前髪が浮いていた。私はそれを水で濡らして押さえ、奥二重の目の地味な顔にため息をつく。
 ブレザーも似合っていないし、久しぶりに着たスカートもスースーするし、早く帰りたい。そう思いながら、とぼとぼと体育館へと向かった。
 ざわざわとした体育館前は、真新しい制服をまとう生徒たちで ごったがえしていた。制服の匂いとは別に、整髪料だろうか、それとも香水や化粧だろうか、いろんな香りが混ざっていて酔いそうだ。
 ただでさえ、久しぶりに目のあたりにする集団。話し声や笑い声がキンキン耳に響き、たくさんの人の顔も直視できない。眩暈がする。
『うわー……ヤバ』
『悲惨なんだけど』
『私だったら無理』