予想外の言葉に、私の表情筋は固まってしまった。神谷さんは、ちらりと私を一瞥し、またまっすぐ前を見る。
「理不尽なことには慣れてるし。それに、私に関わると、周りから変なふうに 言われるから」
「そ、それは……」
 こちらこそだ。こんな根暗がしゃしゃりでたら、それこそ身の丈を知れと罵られる。実際、加賀見先輩はそんな態度だった。足もとを見つめた私は、下唇を噛む。
「で、でも……慣れてても、あんなこと言われたりされたりしたら、嫌だよ」
「…………」
「それに、加賀見先輩て人、なんか超ヤバくて最低だし、ぶっちぎり顔だけナルシスト男だし……」
「ふっ」
 かすかに噴き出した神谷さんに、私は顔を上げた。けれど、遠くから生徒たちの笑い声が聞こえ、彼女はすぐにコホンと咳払いをして無表情になる。
「……とりあえず、ありがとう」
「う……うん」
「坂木くんにも、あとでお礼を言うわ……」
 そんなことをつぶやきながら、神谷さんは階段を上り始めた 。坂木くんがまた助け舟を出してくれたことにようやく気付いた私は、しばらくたたずんだままだった。

「図書室行こう、紺野」