お母さんは、眉を下げて微笑み、部屋を出ていった。私は立ち上がり、姿見に自分を映す。上下グレーのスエットに伸ばしっぱなしの黒髪、覇気のない顔の私が、猫背で立っている。
 こんな私が、明日から高校一年生になんてなれるのだろうか。



【俺、ミヒロが頑張ってるの、わかってるから】
「うん……」
【ミヒロのこと、ちゃんと見てるし、応援してる】
「うん……!」
 翌日、高校の女子トイレの個室で、私はスマホに耳をぴったりとくっつけてうなずいていた。トキカプアプリを起動し、過去のアラタとの通話イベントボイスを再生していたのだ。
「ねぇねぇ、さっきすれ違った男子見た? リボンつけてたから、同じ新入生だよね? ちょっといい感じじゃなかった?」
「見た見た。超笑顔で話してた人でしょ? 爽やかー」
 トイレに入ってきた女子たちに気付き、私は個室の中でビクッと身を縮めた。慌ててスマホを消してポケットの中に入れ、個室に入っていますよアピールで水を流す。
「なんかイケてる人が多いっていうか、レベル高くない? 男子だけじゃなくて女子もさ」
「わかるー。さっき、長い黒髪の女子でさ、すごい美人見ちゃった」