「なんて? 声がちっさくてよく聞こえないんだけど」
 わざとらしく耳に手をあてて、聞こえないふりをする先輩。高校、怖いな。こんなに態度がでかい人、本当にいるんだ。
 私は、負けないように生唾を飲み、あとずさりしそうな足に力を入れる。
「だ……だから……」
「あー! 加賀見先輩だ」
 そのときだった。中庭のほうからこちらに来た坂木くんが、大きな声で先輩の名を呼んだのは。
「え? 坂木?」
「そうです、お久しぶりです」
 坂木くんは先輩の横まで来て、頭を下げる。屈託なくにこっと微笑み、緊迫した空気が一気にほどけた。
「お前、この学校入ったの?」
「はい。俺のこと覚えてくれてたんですね」
「そりゃ、中学の頃同じサッカー部の一個後輩だったし、お前中一のとき、めちゃくちゃうまかったからな」
「今は、二個後輩ですけどね」
 ふたりが流れるように会話を始めたから、私と神谷さんは蚊帳の外のような雰囲気になった。視線だけ動かすと神谷さんと目が合う。
「そういえば、この前近所でアキナ先輩と会って話したんですけど、先輩付き合い始めた んですね、アキナ先輩と」
「え?」