「あっ、ううん、ごめん、坂木くんだった」
「どっちも俺だけど」
「な、なんでもない。なんでもなかった」
「なんだ、それ」
 目の前で、坂木くんが笑う。アラタと同じ名前で、同じ誕生日で、同じ顔で、似た声の坂木新くんが……。
【もしかして、本当に俺だったりして】
 そして、アラタの言葉がまた脳裏によみがえった。
「つーか、紺野、あいかわらずつかめないけど、話が前よりできるようになってる」
「そ、そうかな?」
 額を押さえていた私は、坂木くんを見る。腕組みをしている彼は、満足そうに微笑んでいた。
 たしかに、坂木くんと話すのは苦じゃないし、アラタみたいで楽しくて、緊張感も取れてきている。
「うん、リハビリ順調」
 リハビリ……。
 そうか、坂木くんが顔色の悪い私を気遣ってくれたのも、一年間引きこもりだった私に優しいのも、もしかしたら自分の過去の経験があるからなのかもしれない。私の引きこもりと並べるのはあまりにも失礼だけれど、心に寄り添ってくれている感がある。