「体育、女子は外でなにやってたの? 男子は体育館だったから」
「体力測定。久しぶりに短距離走やったから、ちょっとフラッとして」
「あー、わかる。一年くらい体を動かしてなかったら、走ると死ぬよね」
 うん、とうなずいたけれど、ちょっと疑問に思った。なんで、坂木くんは一年くらい体を動かしていない人間について、さもわかっているような口振りなのだろうか。
「……体育休んでたときが、あったの?」
「うん。ていうか、俺も一年間学校休んでた時期があったから。十四歳頃」
 坂木くんが、白を黒へとひっくり返した。瞬きをした私は、だいぶ遅れて「……え?」と聞きかえす。坂木くんは、なんてことないように続けた。
「病気しててさ。入院したり手術したりで、ほぼ一年間学校行けなくて」
 それを聞いた私は、生唾を飲んで喉を上下させる。
「そ……そうなんだ」
「うん。で、復帰したとき先生たちが進級するか留年するか選ばせてくれて、親と話し合って中二をやりなおしたんだ」