カウンターに向かうと、坂木くんが頭のうしろで手を組みながら言った。
「……うん」
「新学期始まったばっかだからかな?」
「そ、そうだね」
 奥のほうで、椅子の音がカタンと響いた。見ると、大田くんと神谷さんが向かい合ってテーブルに座っている。昨日と同じ場所で、同じ体勢。大田くんは、また寝るんじゃないだろうか。
 カウンターに入ると、すでに真ん中の椅子にオセロがセッティングされていた。それに目を落とした私を見て、坂木くんが小学生男子みたいなドヤ顔をする。
「ハハ……今日もするの?」
 思わず笑ってしまうと、坂木くんは、「する」と言って大きくうなずいた。
 なんだろう、私が周りのことを気にして細かいことを考えているのが、一瞬でバカらしくなるようなこの空気。坂木くんは、本当に不思議だ。
「そういえばさー、今日の体育の後、紺野の顔が青白っぽく見えたけど、大丈夫だった?」
「……うん、今はもう大丈夫。ありがとう」
 そんなことに気付いてくれていたんだ。頬が温かくなるのを感じ、私は口をきゅっと結んでコマをひっくり返す。パチンパチンという小さな音が響いている。