やっぱり、言わないほうがよかったかな。変に気を使わせてしまうし、ちょっと面倒なヤツなんじゃないかって警戒されたかもしれない。あぁ、失敗した……。
 勝手にひとりで落ちこんでうつむいていると、坂木くんが口を開いた。
「頑張ったなー。よく高校通えてるな」
 ……え?
「それじゃ、体もキツくて当たり前か。徐々にでもいいから、慣れていけるといいな」
 微笑みながらうなずいている坂木くんに、私は呆然とする。
 “頑張った”……?
 その言葉に、涙腺が熱くなった。入学から今までずっと立ちっぱなしだった心のなかの自分が、ようやく椅子に座ってもいいよと言われたみたいだ。ギチギチに張っていた心の糸が、少しだけゆるむ。
 そして、高校入学を決意するまでの日々のことが、一気に脳内を駆け巡った。
 窓から見える中学生や高校生の制服姿や明るい声に、言いようのない焦りを覚えたこと。お母さんが、こっそり高校入学について調べてくれたり、先生に相談しにいったりしてくれていたこと。そして、私に気付かれないように、洗面所で涙を流していたこと。