「あ、思い出した。うしろ姿だけ神谷さんの人だ」
 そう言われて、私は口を閉じた。ええ、そうです、昨日たしかに間違われました。心のなかでぼやきながら、下を向く。
「失礼だろ、エトジュン。ちゃんと名前で覚えろよ。紺野だよ」
「あー、はいはい、紺野ね紺野」
 江藤くんは、めんどくさそうに私の名を連呼した。どうでもいいから、別の席へ移ってほしい。
「紺野、不正がないように見てて。俺らの試合」
「え?」
 けれど、坂木くんがそう言うや否や、目の前で江藤くんと同じポーズをして手をがっちりと組む。そして、「レディー、ゴー、お願い」と言われた。ちょうど真ん中にいる私は、レフェリーにさせられたようだ。ちょっと恥ずかしい。
「レ……レディー……ゴ、ゴー……」
 結果、ものの数秒で坂木くんが圧勝した。
「おま……紺野のか細い掛け声のせいだからな」
 江藤くんが、右手をぶらぶらさせながら私を睨んだ。
「人のせいにしない」
 そして、彼は坂木くんから軽いゲンコツをくらったのだった。

「行こう、紺野」
「あ……うん」