【あのさ、俺、今気付いたんだけど、コンタクトを片方つけ忘れてきたみたいで】
【え? 大丈夫?】
【歩きづらいから、悪いんだけど手をつないでもいい? 学校が近くなってきたら離すからさ】
 はにかみながらそう言ったアラタは、リアルな動きでこちらに手を差し伸べてくる。
【お願い】
【うん、いいよ】
 スマホ画面のアラタの手のひらを人差し指でそっとタップすると、そこにハートマークがいくつも表示され、親密度ゲージが数ミリ上がった。それを見て、私は小さくガッツポーズ。
【……ロード中です。しばらくお待ちください】
 けれど、急に暗転した画面。
 現実に戻された私は、笑顔を固めてスマホを枕もとに置いた。そして、ベッドの上でごろんと寝がえりを打ち、天井を見上げる。通学中の青空ではなく、先週引っ越してきた私の部屋の天井を。
「……アラタと同じ学校なら通いたいんだけどな……」
 ゆっくりと部屋を見回し、ため息をひとつ。殺風景な六畳間のこの部屋は、おしゃれな十代女子の部屋とはまったく違う。