笑っていたい、君がいるこの世界で

「悪かったって何度も謝っただろ? それに、そこまで嫌なんだったら、開発会社にかけ合って、キャラを完全消去って話も出してみるからさ」
「それはダメです!」
 完全消去という物騒な言葉を耳に入れ、私はとっさに声を上げてしまっていた。両こぶしを握り、腰もわずかに浮いている。
 車内が一瞬しんとなり、坂木くんが数秒経ってから「……え?」と言った。そして、口もとに手をあて考えこむ仕草をしたあとで、急に口を開く。
「……あれ? もしかして、“アラタ”って……マッチングアプリの相手じゃ……ない?」
 ギクリと口に出して言ってしまいそうになった。すでに確信したかのような顔に移り変わった坂木くん。目が合って、私はヘビに睨まれたカエルのような心地になる。
「紺野、現時点でのアラタのビジュアル、どんな感じ?」
「いや、それは……その……」
「見せて? お願い」
 その圧に抗えず、おずおずとトキカプを起動して見せると、坂木くんは片手で目を覆って背もたれに頭を沈める。
「お姉ちゃん、鈴奈にも見せてー」
「ハハ。嬉しいねぇ。車を停めたら僕にも見せてね」