笑っていたい、君がいるこの世界で

 最後のひとコマを裏返すと、坂木くんが唇をへの字に曲げた。
「オセロ、紺野にとうとう負けた」
 やっと一勝できた私は、トキカプ以来の小さなガッツポーズをしたのだった。

 五時半になり、図書室の施錠を終えた私と坂木くんは、昇降口の屋根の下で横並びにたたずんでいた。雨が激しく降っていたからだ。
「これは……傘を差しても濡れそうだな」
「うん」
 私は折りたたみ傘をバッグから取り出してうなずく。
「俺は、その傘すら持ってきてないんだけど」
 大雨でかき消されそうなその言葉を耳に入れ、私は正面に見える校門を眺めながら固まった。頭のなかに、トキカプみたいな三択コメントが出てくる。
【①私の傘に入って、一緒に帰る?】
【②この傘、使って】
【③先に帰るね。バイバイ】
 どの選択肢も難易度が高い。私は眉間に手をあてて、考えこむ。
「あ、そうだ。紺野、ちょっと待ってて。俺、電話するから」
 けれど、坂木くんはなにかを思いついたようにスマホを出して、どこかへ電話をかけ始めた。あまりよく聞こえなかったけれど、最後に「お願いしまーす」と軽い声で言って電話を切ったのがわかった。