私は、坂木くんが顔を引っこめた窓と神谷さんを交互に見て、考える。もし、助け舟だとしたら、えらくスマートだ。
 見ると、神谷さんも一度だけうしろを振り返った。もしかしたら、私と同じことを思ったのかもしれない。そして、フラグが立っちゃったのかもしれないと感じた。坂木くんと神谷さんの恋愛フラグが……。
「……高校、すごい」
 私は、同じ廊下にいたというのに別世界のような気がして、そうつぶやいた。

「美尋、学校どう?」
 夕食のとき、お母さんが私の顔色をうかがうように聞いてきた。私は、
「まだ二日目だし、わからないよ」
 と返し、サラダのミニトマトを口に入れる。
「でも、行きたくないとは言わないのね。すぐに弱音が出るかと思ったのに。もしかして、もう友達ができた?」
「ううん、全然」
 口の中でミニトマトをつぶす。そう、私にはまだ友達といえるような人はできていないし、そもそも人と会話をしていない。坂木くんとほんの少しだけ言葉を交わしただけで、他の人とはまったくだ。