それにしても、神谷さん、本当に嫌そうにしている。声をかけて助け舟を出したほうがいいのかもしれない。でも、私なんかが間に入るのって、出しゃばっているようで変だ。江藤くんにも、もしかしたら神谷さんにも、白い目で見られそうで怖い。
「おーい、エトジュン!」
 そのとき、教室から廊下に顔を出した坂木くんが、こちらに向かって呼びかけてきた。
「は? エトジュン?」
「江藤淳一郎だから、エトジュンでいいだろ?」
 坂木くんが、眉を寄せた江藤くんに微笑みかける。江藤くんは、神谷さん同様、坂木くんとも友達というわけではなさそうだ。違う中学だったのだろう。それなのに、坂木くんは人懐っこく声をかけ、江藤くんを手招きしている。
「今、このクラスの腕相撲ナンバーワン決めてるから、こっち来て。一緒にやろう」
「マジ? 高校生になってまですることかよ?」
 そう言いながらも、江藤くんはちょっと嬉しそうに教室へと踵を返す。その隙に、神谷さんは逃れるようにトイレのほうへと歩いていった。
 ……なに今の? 偶然? それとも、意図的?