それよりも、神谷さんと間違われるのは、今日二回目だ。ひとり目は、わりとイケメンで長身の男の先輩だった。上履きとネームの色の違いから先輩だとわかったけれど、ちょっと怖かった。
 黒髪ロングストレートで長さも同じくらい、背格好も似ているためか、うしろから見たら間違えやすいのだろう。無論、神谷さんはかなり美人で、私はというと普通中の普通なので、前から見たら一目瞭然なのだけれど。
「……あ」
 トイレを済ませて教室に帰る途中、今度は本物の神谷さんが江藤くんに話しかけられていた。雰囲気的に、ふたりは同中でも知り合いでもなさそうなのに、江藤くんが一方的に絡んでいる印象だ。
「俺だけじゃないって。気になってる男が多いんだってば、神谷さんに彼氏がいるのかどうか」
「…………」
「もー、ツンが過ぎるよ? いい加減教えてよ」
 横を通ろうとすると、そんな江藤くんの声が聞こえた。神谷さんは冷ややかな目をして、少し迷惑そうだ。無視して通り過ぎようとしても、江藤くんがそれを阻んでいる。
 ……こういうのって、本当にあるんだな……。
 部外者の私は、横目でその様子をうかがいながら通り過ぎる。