「それは違う」
「ケチー」
大田くんだけは動じずに、坂木くんのおでこを指の腹で打っている。私はじっとその様子を見ていたけれど、坂木くんとまったく視線は合わなかった。おおよそ助け舟だとは気取らせないほどの自然さだ。
頭のなかで、トキカプのイベント発生の通知音が聞こえた気がした。ゲージが溜まり、新規ストーリーが公開されたときの音だ。条件反射で心臓が跳ね、胸が高鳴る。
「紺野さん、お弁当どこで食べるの?」
ガヤガヤした空気を縫って、いつの間にか神谷さんがすぐ近くに来ていた。私の真ん前にいた女子を細い視線で一瞥し、その子は一歩あとずさる。
「あ……いつもの中庭だけど」
「奇遇ね。私もそこに行こうと思ってたの」
神谷さんはにこりともせずにそう言って、すたすたと教室の入口のほうへ歩きだす。呆気に取られていると、振り返って顎を上げた神谷さん。
「お腹すいてるの。早く」
私は慌てて席を立ち、神谷さんの背中を追いかけた。視界の隅で、坂木くんとじゃれ合ってい る男子たちが見える。私は新たなストーリーをタップしたような逸(はや) る鼓動に、口を結んだ。そして、目頭が熱くなるのを感じたのだった。
「ケチー」
大田くんだけは動じずに、坂木くんのおでこを指の腹で打っている。私はじっとその様子を見ていたけれど、坂木くんとまったく視線は合わなかった。おおよそ助け舟だとは気取らせないほどの自然さだ。
頭のなかで、トキカプのイベント発生の通知音が聞こえた気がした。ゲージが溜まり、新規ストーリーが公開されたときの音だ。条件反射で心臓が跳ね、胸が高鳴る。
「紺野さん、お弁当どこで食べるの?」
ガヤガヤした空気を縫って、いつの間にか神谷さんがすぐ近くに来ていた。私の真ん前にいた女子を細い視線で一瞥し、その子は一歩あとずさる。
「あ……いつもの中庭だけど」
「奇遇ね。私もそこに行こうと思ってたの」
神谷さんはにこりともせずにそう言って、すたすたと教室の入口のほうへ歩きだす。呆気に取られていると、振り返って顎を上げた神谷さん。
「お腹すいてるの。早く」
私は慌てて席を立ち、神谷さんの背中を追いかけた。視界の隅で、坂木くんとじゃれ合ってい る男子たちが見える。私は新たなストーリーをタップしたような逸(はや) る鼓動に、口を結んだ。そして、目頭が熱くなるのを感じたのだった。