教室の空気が、よそよそしくざわめきだした。知らない人たちが、「なになに? なんの話してるの?」と耳打ちしだす。私の前に立つ彼女は、どことなく居心地の悪そうな顔をして、話をつなげようと口を開いた。
「引きこもりってさ……」
 そう言いかけ、なにか質問してこようとしたときだった。
「あ、俺、実はみんなより一個年上なんだよね」
 すぐ近くから、そんな声がした。
「ええっ!?」
 次いで、周囲の男子の大きな声が響く。教室全体の空気ががらっと変わり、みんなの視線が根こそぎ坂木くんに集まった。「えっ?」とか「はっ?」という声が飛び交うなか、坂木くんはカラッとした声で笑う。
「ちなみにこの前誕生日だったから、セブンティーン」
「マジで?」
「マジマジ。中学のとき病気で留年したから」
 教室中が騒然とする。その様子を見ていた廊下にいた他クラスの生徒も、窓から顔を突っこんで「なになに?」と聞いてくる。
 一気に話題をかっさらって笑っている坂木くんを見て、私は口を開けたまま動けなかった。私の目の前にいる女子も、同じ顔をしている。
「だから、もっと敬ってよ。オオタン、昼メシおごって。カレーでいいからさ」