私の出した声は、弱々しかった。けれど、それを聞いた神谷さんも、ゆっくりうつむき、口を開く。
「こっちこそ」
 神谷さんはそっけなくそう言って、口を真一文字に結んだ。けれどその唇が震えているのを見たとき、気付いた。
 私は大勢をいっしょくたにして怯えていたけれど、ひとりひとりは私と同じように感情を持った人間なのだと。私はなにから隠れて、なにを恐れていたんだろうと。
 みんなからの視線を人一倍気にするくせに、こうしてまっすぐに私に向き合ってくれる人たちに、今、ものすごく心が震えている。引きこもりから抜け出てもなお、いないものとして身を潜めていたのに、ちゃんとひとりの人間として存在を認めてもらえている実感に、全身が喜びでざわめいて いる。
 胸の奥で、なにかスイッチが切り替わったかのような音がした。喉もとの気持ち悪さが、すっと流れ、私は今日ようやく息ができたみたいな心地がした。

 授業には、二限目から出た。何人が私の過去を知っているのだろうという怖さは完全にはなくなっていないけれど、さっきのやりとりで、だいぶ落ち着きを取り戻した気がする。
「大丈夫だった? 紺野さん」