笑っていたい、君がいるこの世界で

 なにも知らなかった神谷さん。はからずも明るみに出てしまった事実に、私は「……あ」と声を出した。江藤くんも、目を見開いて一歩あとずさる。生唾を飲んだのが聞こえた気がした。
「全部、ちゃんと教えて。どういうこと?」
 すごんだ神谷さんに、江藤くんはたどたどしくもすべて答えた。怖い顔のまま身動きひとつせずにそれを聞いていた神谷さんは、話が終わると、スーッと細く息を吸う。そして、乾いた破裂音のようなものを保健室に響かせた。
「最低」
 神谷さんが、江藤くんの頬を平手打ちした音だった。私は息をのみ 、握っていたシャツをぎゅっと握る。それが、つかんだままの坂木くんの腕だと気付き、慌ててパッと手を離した。坂木くんも、目を丸くして神谷さんを見ている。
「……ってぇ……」
 頬を押さえた江藤くんは、片目を瞑って神谷さんに向きなおる。すると、今度は胸もとにドンとこぶしをひと突き、神谷さんからお見舞いされた。
「交換条件? 脅迫まがいなことをして、恥知らずもいいところだわ。あんたみたいな人間、大嫌い」