笑っていたい、君がいるこの世界で

 声を上げると、一気に私へと注目が集まった。廊下にいるみんながこちらを見ている。
 私は生唾を飲もうとした。けれど、飲みこむ直前に食道を逆流する圧を感じ、喉もとが焼けるように熱くなる。顎が急激に痛みだし、肩に力が入って前のめりになった。
 あ……吐く……。
「え? 紺野さん、真っ青なんだけど」
 その声で、意識が現実へと戻った。けれど、吐き気だけがリアルに残り、こみあげてくる気持ち悪さで生理的な涙が滲む。
「う……」
 私はすぐに立ち上がり、廊下へと急いだ。急に立ったからか、ぐらりと立ち眩みがする。足が何度か人の机にぶつかり、座っている人が驚いた顔をした。「わっ」と声を上げる人もいたけれど、そんなことにかまっていられない。
 トイレ……トイレに行かなきゃ 。
 口を押さえて教室の入口に手をかけると、ちょうど登校してきた坂木くんがいた。
「え? 紺野? ちょっ……なに? どうした?」
 胃液が上がってくるのを感じ、私は坂木くんが伸ばした手を振り払うように走った。廊下にいる生徒、登校してきた生徒が、私が走るのを見ている。驚いた顔の人のなかに、数人面白がっている好奇の視線を感じる。