笑っていたい、君がいるこの世界で

 瞬時に、頭の中に中三の春の出来事が映し出された。そしてそのときの鳥肌までもが再現される。ドッドッと、心臓の音が爆音で響きだした。
 そうだ、あの日、たまたま間違えて、家でこっそり描いていたイラストのノートを学校に持ってきてしまったんだ。当時ハマっていたアイドルグループの推しメンイラストでいっぱいのノートを。
 あろうことか私は、それを教室に落としたまま、しばらく気付かなかった。そして、それを拾ったクラスメイトの女子が、私のものだとわからないまま、他の人にも勝手に見せたんだ。
『ねー、見てこれ、この絵。ちょっとヤバくない?』
 その子はそれだけでは飽き足らず、そのノートを持って、廊下にいる友人のところへと向かった。私は、席を立ってそれを追いかける。だって、あのノートの終わりのほうには私のサインが書かれていた。人に見せるものじゃないからと、調子に乗って書いたものだ。
『……返して……』
 小声で訴える私の胸のあたりから、喉もとへと酸っぱいものがせり上がってくる。その日、私は朝から体調がよくなかった。
『ホントだー。超ウケる。他のページは?』
『見よう見よう』
『やめてっ』